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第6回全日本エンデュランス馬術大会
秋季北海道エンデュランス馬術大会
2005年9月24−25日

月と星のはなし 〜夏の終わりはナオミとともに〜 Ukotan記  前編

ナオミは月毛である。 今年の全日本は、午前三時のスタート、快晴、頭上には満天の星と 半分のお月様。月夜に月毛の馬に乗るなんて、なんとロマンチックでありましょう。 制限時間はインタイムで12時間。決して余裕はないけれど、 いつものように、最後尾からのスタート。冷静に、冷静に。

夜間走行に関しては、極めて繊細で入念な準備がされており、 途中馬群で走ることになったが、人馬ともに全くトラブルなく、 不安を感じなかった。 (毎回お天気とは限らないし、濃霧などの場合は臨機応変な対応が 必要なのだろうが) とにかく暑さに弱い馬なので、時間の貯金をするなら1、2レグ。 ネィティブビレッジが誇るトレイナーMr.Yの「とにかくイケイケに 仕上げたから気をつけて」の言葉通り、4気筒からV6へチューンナップ されたナオミは、林道に入ってからも滑るように走る、走る。 ナオミ色に染まる森の中を駈け上がり、駈け下る。 こ、怖いんですけど、Yさん(^^;) 確か四輪駆動だったのにポルシェ並みのエンジンになっている。 予想外のスピードでクルーポイントを通過することになり、予定していた 30q地点でのクルーワークが間に合わない。そのまま1レグ終了。

さくっと検査を通過して2レグスタート。まだまだ夜は明けたばかり、 貯金を作っておかなければ。津別の道産子たちは、とにかく蹄まわりに 信頼がおける。2レグの山越えは300メートルの高低差がある難所の一つだが、 道産子にはむしろ有利な地形。追撃隊の戦意を喪失させるには林道で 振り切るに限るのだっ! って、べつに追撃されてないけどね(笑)。
予定より30分稼いで終了。

3レグ、相棒の勝太郎の心拍の下がりが悪く、単騎スタート。 多少の疲れはあるが、まだまだ前進気勢があり、気温は上がりつつあるが、 幸い風もある。機嫌を損ねないようにハミにはなるべく触れないようにする。 ああよかった、なんとか完走できるかもしれない。そもそも10の能力 しかない馬をめいっぱい作り込んで、15の能力が必要とされるレースに 出たのだ。あとはイーブンペースで馬体と相談しながら走ろう。 それにしてもカメラがあちこちから狙ってくるなぁ、ナオミがビックリするから 厭だなぁ、なんでかなぁ。

3レグ中盤、追いついた勝太郎と馬なりで引っ張り合いながら走る。 相棒がいるのは素敵なことだ。3レグ終了。ナオミ絶好調で、知らない人からも 応援が。なんで今回はこんなにちやほやされんのかなぁ、と思っていると、 今トップなんだよとのこと。
……!?
……誰が?

4レグ、再びの単騎スタート。一応、先頭である。気温が上がって、 風もやみ、ナオミのエンジンは4気筒に戻る。お願いですから一人にしないで(^^;) 馬を追うが前進気勢なし。いやしかし、冷静に振り返ってみよう。元気で 完走できればいいわけだから常歩だっていいわけだ。貯金もあるし、ま、 少しのんびり行くかな。ちょっと牽き馬してお休み。 すぐに勝太郎に追いつかれた。それなりに疲れているとのことだが、 二頭になると「しゃあない、行くか」という雰囲気になる。 思えばこの勝太郎とは、ペースもボロのタイミングも知り尽くしたコンビである。 後ろから1頭追い上げてくるはずだ、との情報が入るがいっこうに気配なし。 むこうも疲れてるよ、絶対。

最後の給水&クルーポイント。ゴールまでは約8q。ナオミも勝太郎も落ち着いて 水を飲み、青草を食べている。ライダーはヨレヨレだが、クルーは笑顔である。 馬の腹を探るアブのように、振り払っても振り払っても、優勝だの、感動の ゴールだの邪念がまとわりついて頭がおかしくなりそうだ。 完走できればいいんだ。そうだよ、完走できればいいんだよ。 ところで去年の優勝賞品ってなんだっけ? うふ、うふふふふふ。

そのとき、牽き馬でさっと目の前を横切る人馬がいた。

6歳のイケメンアラブ、アランである(ちなみにライダーもイケメン)。 イケメンライダーはイケメンアラブを開けたスペースに移動させてさっと騎乗し、 瞬く間に駈け去った。この「極めて紳士的にして華麗なる追い越し」にukotanは 頭に血が上るが、5月の小淵沢大会無念の心拍失権を思い出す。 (ラストスパートで2頭を振り切り、勝太郎と同着2位でゴールするも、 心拍60で失権、おまけにナオミをヘロヘロにさせてしまった)。 いや、でも今のナオミなら、追いかけて相手にプレッシャーをかけ、 ハコウさせる手もある。勝負できる、今のナオミなら……。 「お〜、無理すんな〜」 Mオーナーがのんびり呟いた。絶妙のタイミングだった。 (もっともこの一言が、後にもう一つのドラマを生むのであるが……)

私は勝負師ではなく、一人のアマチュアエンデュランス愛好家でありたい。 ハコウしている馬を見るのは胸が痛いし、ハコウしたまま懸命に走り続けて いる人馬には、感動を覚えるどころか気分が悪くなる。その感受性を失わない ライダーでありたいと思う。 なんてことをukotanは酔っぱらうと人にエラソーに語っていたりするのだ。 さて、ダークサイドへの誘惑を無事に断ち切り、残りを走って競技場へ。 走路は腹帯をゆるめて牽き馬し、勝太郎父ちゃんと手をつないで (恒例となるのか?(笑))のゴール。

全日本2、3フィニッシュである。 (同着は認められないらしい。※HPの公式発表をお待ち下さい) ukotanは最後の重量検査、ナオミはベテランクルーによる最後のクール ダウン開始。 慎重にゴールしたし、歩様にも違和感を感じなかった。ナオミ完走、 最終心拍48。勝太郎も元気いっぱいオールAの完走、大満足であった。 感動、感動、みんなウルウルである。

だがしかし、ここからナオミの長い長い夜が始まるのであった……。

レース終了直後、ukotanに試練が訪れた。

ボロボロのヨレヨレ、自分の身体の異臭にぞっとしながら、食べ物を求めて ヨロヨロとベースに帰ろうとしていた矢先、眉目秀麗な女性二名に声をかけられ 別室へ案内された。今大会から導入されることとなったドーピング検査である。 ブリーフィングではランダムに馬1頭、ライダー2名を検査するとの告知が あったが、優勝馬と1、3位のライダーに決定されたようだ。 まる一日汗をかいていたし、初めてづくしの緊張で必要な検体が採れず、 イオン飲料1.5リットル(イオンやアミノ酸飲料、少量のコーヒー・ お茶などはOKなんだそうな)を飲んだがダメだった。

「あのぉ、身体が冷え切ってしまったんですけど」
「じゃぁ、お湯いってみますか」
そういう問題なのか??? っていうか、お湯は飲むんじゃなくて 浴びさせてください。 砂糖をとかしたお湯1リットルを飲まされ、部屋の中をウロウロすること 2時間半。その間、前述のアランのライダー、イケメンM氏が登場。 爽やかに飲み、爽やかに出すべきものを出し、爽やかに手続きを済ませて 立ち去った。 ああいうときは男女別室にして下さい。とくに美男と美女の場合はね。 パーテイションだけなんてデリカシーなさ過ぎです。

「どうですか? そろそろ」
「……(涙目)」
「あのですね、最低75cc必要ですからね。一回で採尿できない場合はやりなおしです」
「つまり?」
「つまり、ある程度溜めておいて一気に出しちゃったほうがいいというわけです」
なんか腹たってきた。めちゃくちゃ腹立ってきたし、お腹空いた。 生まれて初めて母親以外の人とお手洗い(個室!)に入り、採尿。 検体提出手続き終了まで3時間30分。ukotan逆ギレ状態で部屋を出る。

一人のアマチュアエンデュランス愛好家にとってあまりにも過酷な関門を突破し、 チームに合流。そこで、ナオミがベストコンディションホース候補になっていると 聞かされる。(候補はコンディション計算式にのっとって300ポイント以上を獲得 した馬が対象となる) 今回はナオミとアランの一騎打ち。

最終心拍は二頭とも48。アラン歩様C、ナオミ腸音B、両馬ともその他はすべてA。 ゴール時のタイム差およそ15分。 などなど計算式にいれてはじき出された数字はアラン325 P ナオミ315 P その差 10ポイント。つまり、再検査でアランの歩様がB以下であり、ナオミの腸音がAに 回復すれば逆転することができる。(※詳細はHP公式発表をご覧下さい) 2頭は翌朝10時の再獣医検査を睨んで馬房へ隔離され、ホールディングタイムに 突入した。 クルー対決の始まりである。

しかし腹が減ってはなんとやら、まずはご飯を食べましょう。 すみませんがukotanはずっと禁酒してたので飲ませて頂きます。 ああん、おなかがダブダブでビールが美味しくないよぅ。 その夜、水ぶくれのお腹に美酒を流し込みながら、話題はベスコンのことばかり。 真のエンデュランスライダーチームが最も欲しいもの、それこそがベストコンディションホース賞。

「ベスコンって何が貰えるんですか」
「馬着。かなりカッコイイよ」
「うわぁ……」 トレイナーY氏、焼酎をぐっと飲む。
「もし万が一、ナオミってことになったら?」
「そりゃぁもう和種馬の受賞は全日本で初めてってことになるね」
「ううむむ……」 ukotan、焼酎をぐぐっと飲む。
その間にも入れ替わり立ち替わり、馬仲間たちが祝福にきてくれる。
おめでとう、ありがとう、おめでとう、ありがとう。
「お〜、ukotanさん」
「あ〜どうも、お久しぶりです」
「おしっこ出るのに二時間もかかったんだって?」(−−;
かくして夜は更けた。

ホールディングタイム中、医療行為はいっさい認められない。その点だけを とるとナオミが有利に思われる。腸音は食べさせればすぐに回復するからだ。 しかし、夜は寒い。筋肉が冷えればコヅミが出てしまう。 まぁいうなれば、ナブラチロワがシャラポワ(アランは男の子だけど)と 試合したようなもんなのである。ナオミは今頃さぞかし身体のあちこちが きしんでいるに違いない。 (そのコンディションの計算式とやらに、年齢が反映される要素があればなぁ) Mオーナー始めクルーたちが二時間ごとの牽き馬など、つきっきりでケアを してくれた。ukotanはドーピングの後遺症でお腹がおかしくなってしまい、 宿でダウン。トホホ。

翌朝、60qスタートを見送る。全部で5頭。続いて40qの馬装、騎乗、 下乗りなど目の回る慌ただしさだ。ベスコン審査は10時から。40qトリオの スタートを見送って、チェックアウト手続きを済ませにいったん宿に帰った。 再び競技場へとって返す。
「ukotanさん!」
「あら、うめ吉さん、おはようございます」
「ナオミが……!」
「ナオミが……?」
「飛んだそうです」

彼女は昼夜放牧で日常を送っている。一晩中狭い馬房に閉じこめられ、 うとうとしたと思ったら牽き馬で歩かされ、あげくに夜が明けたらすぐそばを 仲間たちが次々に声援を受けながら走り去っていく。そのとき彼女の脳裏に 去来したものは・・・
「とりあえず、ここを出よう」
ナオミは胸の高さまである馬房の木の扉をひらりと飛び越え・・・と思ったに 違いない。まぁ、中年にありがちなミスだが、本人が思うほど身体は動いて いないのだ。 ナオミ逃走、捕獲。 真っ青になって駆けつけると、なんと後肢に擦り傷が。それも1カ所ではなく、 4〜5箇所に散らばっている。ホールディング終了まで50分。薬を塗ることは 許されない。
「こいつ、つめが甘いよなぁ」
「ライダーに似たんだよ」
私のせいなのか(^^;?

野生の草食動物は傷や痛みに強い。ハコウしたらすぐに淘汰されてしまう からだ。道産子もかつてはそうであった。歩様確認をしてみると、傷などないかの ように走る。でもまぁ、見た目はすこぶる悪い。 とりあえず他の所だけでも綺麗にしておこうと手入れを開始する。 勝太郎父ちゃんが蹄油を塗ってくれる。すぐに厭がって前ガキし、泥だらけに なってしまった。普段と違うことは止めていつも通りのナオミを見せよう。 ガリガリ金ブラシをかけておく。 ここでMオーナーのアドバイス。傷口に完全なカサブタができてしまったら、 歩様検査の時にそれが破れてハコウするかもしれない。カサブタが固まりきって しまわないように動かし続けよう。 ベスコン審査開始のアナウンス。 アランがゆっくりと馬房から出てくる。 ナオミも今大会6度目の馬体検査へと向かった。

審査エリアに入れるのはクルー1名とライダー1名。ukotanとMオーナーである。

アラン、馬体検査、歩様検査。
ナオミ、馬体検査、歩様検査。

医療関係者というのはポーカーフェイスがうまい。獣医師団も例外ではない。 ちなみにukotanが経験したAZの大会では、ベスコン審査は馬体検査後に馬装し、 騎乗してパフォーマンスをした。 駈歩発進、8の字、などが披露され、 スムースにできれば観衆からは盛大な拍手や口笛。それに比べると日本の審査は 粛々としている。

アラン、再び歩様検査。 蹄の音も軽やかにアランは走り出した。ちょっと眠そうだったけど、尻尾を ピンとあげたアラブ走り。イケメンヤングアラブは見事に回復していた。 その瞬間、悔しさよりもなんだかホッとした。馬のハコウはいかなる場面でも 見たくない。 クルー対決そのものは引き分けであった。二頭の馬は見事にオールAを獲得し、 ポイント10の差は縮まらなかった。両チームの健闘が讃えられた後、二頭 揃ってのウィニングトロットのお披露目となった。 6歳のスリムなアラブ牡馬アラン 15歳胴長短足いつも怒った顔の道産子ナオミ。 お疲れ様だったね、よく頑張りました。ゆっくり休んでね。

ま、ともかくも審査は無事に終わり、ライダーたちを迎えるため大急ぎで クルーエリアに移動。クルーワークに明け暮れて二日目のレースも無事終了。 結果は全員完走。 やれやれとナオミの馬房の掃除をしていると、なにやら外が騒がしい。 アランの馬房の前に机と椅子が置かれ、獣医師が談笑しながら、何かを 待っている様子。 おお、可哀想なアラン!
出ないのだ、彼も!

閉会式が始まった。

挨拶の後、獣医師団長からベスコン審査に関して丁寧な説明があり、いかに 接戦だったかが公表される。そして表彰式。三名が壇上へ。 イケメンライダーM氏はなんと、ブレザーにネクタイ、清潔なジーンズに シルバーのバックルの正装。優勝の晴れ舞台に相応しい笑顔と白い歯。 「極めて紳士的にして華麗なる優勝楯の受け取り」にうっとり見とれていると、 勝太郎父ちゃんの番になる。父ちゃん、Tシャツやん(−−; ukotanは一応 スポンサーに敬意を表してRMWのポロシャツを着てきたよ、でもさっきまで クルーしてたからジーンズが汚れてるけど。 ukotanもあれやこれや頂いて、リボンの番になった。ナオミは3位だから黄色。 濃淡のグラデーションになっていて少し離してみると満月のように見える。 ナオミの色だ。

閉会式の終わりに久保田氏より総評があった。 そのなかでナオミさん(敬称つきだった!)の健闘を讃えて下さり、 北海道和種の血統の素晴らしさを見直そう、と述べられた。さらには 「道産子の星」という言葉も用いて下さった。 (「見た目はともかく……」との前置きつきだった!) そうともナオミ、おまえは北の大地の子。馬着なんてなくてもへっちゃらなのだ。

ナオミの額には星がある。長い前髪に隠れて見えないこともある。
しかし、この夏、星はついに光を得て輝いた。・・・(完)

ネィテイブは全頭完走の快挙。おめでとうございます! Mオーナー始めクルー、応援をして下さった皆さま、お留守番部隊、 また津別HT研究会からのクルー、応援の皆さまに心より感謝申し上げます。

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