津別ホーストレッキング研究会

最初にささやいた者
ダン・サリバン
2009/8 司馬 ドクター・ミラーTOP
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馬術や調教に関し現存する資料には、紀元前では、アテネのシモン、クセノフォン、アレクサンダーなどによるものがあるが、その後、中世に至るまでは空白の時期であったようだ。

日本人が最初にホースウィスパラーという言葉を聞いたのは映画『モンタナの風に吹かれて』だろう。邦題『モンタナの風に抱かれて』の原題は『The Horse Whisperer』である。The Horse Whispererは1996年に出版されたイギリス人作家ニコラス・エヴァンスの処女作である。すぐさま36カ国語に翻訳され、16カ国でベストセラーの記録を作った本だ。

モンティー・ロバーツにふれないわけにはいかない。いわゆるナチュラルホースマンシップについて最初に日本に紹介されたのが米国人のモンティ・ロバーツによる調教方法かもしれない。彼の自伝とも言える『The Man Who Listens To Horses』(モンティーは、馬にささやくという表現でなく、馬に耳をかたむけるという表現をしている)は1996年に出版され、長きにわたりベストセラーを記録した。翻訳版『馬と話す男』も出版された。ナチュラルホースマンシップは、米国人パット・パレリの造語であり現在では世界中に広まっている。

ニコラス・エヴァンスは、ある装蹄師からホースウィスパラーの話を聞いて非常に興味をもちアメリカ西部にホースウィスパラーを探しに来た。そしてワイオミング州で彼は心を引き付ける調教師と出会った。その調教師がバック・ブラナマンであるということだが、バックを含め多くのナチュラルホースマンとホースウィスパラーとは何の関係もない。最初に「馬にささやく者」と呼ばれたのは、18〜19世紀のアイルランド人、ダン・サリバンのようだ。

ダン・サリバン Dan Sullivan (?〜1810)
18世紀、アイルランドにおいて馬は生活に欠くべからざるものであり、癖馬を手懐けることができる者はちょっとした有名人たりえたのである。ダン・サリバンはそういった人物の1人であった。評判の良い人物ではなかったが、 どんな悪癖馬でも、耳元で二言三言、ささやくだけで、従順な馬にしてしまうというので、単純にささやく者(ウィスパラー The Whisperer)として知られるようになった。

その技法をサリバンはある人物から教えられたが、それは誰にも漏らさないというのが約束であり、生涯、息子にも教区の牧師にも漏らすことはなかった。問題の馬に接するときは絶対に人に見られることがないようにした。それは表面上は『他に漏らさない』という約束を守るということだが、たぶん理由はそれだけではないであろう。

問題の馬を調教する時は誰も見ることができないように完全に囲われた中で行なわれた。調教にかかる時間は短く、たぶん30分ほどであり、調教が終わると、入口のドアを叩いて(外の者に)ドアを開かせるのである。ある時、ドアが開かれたその場面を見た者があり、以下のように書いている・・・『その馬は横たわっており、彼は馬の傍らで子どもが子犬と戯れるようにしていた。その時以来、その馬は完全に人に従順になってしまった。』

囲いの中から、何ら騒いでいるような物音は聞こえず、どなり声も聞こえず、馬の反抗を表わすいななきも聞こえず、 馬が蹄を打ちつける音も聞こえず、鞭を鳴らす音も聞こえず、馬と人が取っ組み合っている様子もうかがえない。 囲いの外の見物人にはサリバンが何をしているのかわからないのだが、囲いの中から穏やかな話し声が聞こえるという者もいて、「馬にささやく者」という呼び名が定着していった。 サリバンの評判はイギリズへも伝わり、オックスフォード・ユニバーサル辞典(1933年版)にウィスパラー(ささやく者)として次の定義が与えられた。『馬にささやきかけることにより馬を従順にさせることができるホース・ブレイカー(調教師)のことを”ささやく者”という。』